【産業医コラム】初めてでも安心!〜衛生委員会の立ち上げから運用まで〜
◆ はじめに:「衛生委員会」は企業の健康管理の要
労働者の健康と安全を守るために欠かせないのが、「衛生委員会」の設置です。
従業員が常時50人以上になった時点で、労働安全衛生法第18条により設置が義務づけられています。
衛生委員会は形式的な会議ではなく、企業の労働環境改善、健康管理、コンプライアンスの基盤となる制度です。
◆ 衛生委員会とは?目的と法的位置づけ
衛生委員会とは、職場の労働衛生に関する重要事項を調査・審議するための会議体です。
- 【法令根拠】労働安全衛生法 第18条、労働安全衛生規則 第22条
- 【開催頻度】月1回以上
- 【主な審議事項】
- 健康診断、ストレスチェック、長時間労働対策
- 職場巡視の結果報告
- 労災・ヒヤリハット・安全衛生活動
- 産業医による衛生講話 など
委員会の開催後には議事録の作成・3年間の保存・労働者への周知が必要です。
◆ 衛生委員会の設置条件とフロー
✅ 設置義務の発生条件
- 常時使用する労働者が50人以上
- 業種を問わず義務(建設業や製造業などは追加で安全委員会の設置も必要)
✅ 設置までの流れ
- 衛生管理者・産業医の選任
- 衛生管理者は週1回の職場巡視も義務
- 選任届を14日以内に労基署へ提出
- 委員会メンバーの選任
- 議長:総括安全衛生管理者
- 会社側:産業医、衛生管理者
- 労働者側:過半数代表または労働組合からの推薦
- ※構成比は会社側・労働者側が半数ずつが原則
- 衛生管理規程・衛生委員会規程の策定
- 委員会の目的・構成・運用ルールを明文化
- 就業規則の一部として扱われる
- 安全衛生年間計画の作成
- 年間を通して何をどの月に話し合うかを事前に決定
- 初年度はテンプレートに基づいた作成でも可
◆ 衛生委員会の運営のポイント
💡 会議の基本構成(例:30〜45分)
- 前月の指摘事項・改善状況報告(5分)
- 職場巡視結果・ヒヤリハット共有(5分)
- 長時間労働者の対応報告(5分)
- 健康診断・ストレスチェック状況の確認(5分)
- 産業医の衛生講話(10〜15分)
- 議長によるまとめ(5分)
💬 産業医による衛生講話の活用
- 毎月実施が望ましいです(法的義務ではありませんが推奨)
- 特に委員会立ち上げ直後は、法令遵守項目を中心に衛生講話をおこなっていくことで知識の再確認になります
- 季節性のテーマや、メンタルヘルス・生活習慣病など実務に直結した内容が効果的です
🗂 議事録の作成と周知
- 議事録は産業医の署名付きで3年間保管が必要となります。
- 労働者への周知は、社内掲示板やイントラネットなどで実施します。
◆ よくある疑問と注意点
❓Q. 委員は何人必要?
- 法令上の定員規定はありませんが、5〜7名体制が理想です。
(例:議長1名・産業医1名・衛生管理者1名・労働者代表2名)
❓Q. テレワーク中でも委員会は必要?
- オンライン開催可(労基署通知あり)
- 音声・映像が安定し、意見交換が可能な環境が前提となります。
❓Q. 設置しないとどうなる?
- 衛生委員会を設置すべき事業場が未設置だった場合、労働安全衛生法違反により50万円以下の罰則が科される可能性があります。
◆ 衛生委員会の“価値”を最大化するために
衛生委員会は単なる法令対応にとどまらず、企業のリスク管理と組織づくりの基盤でもあります。
- 健康課題の早期発見と対応
- メンタルヘルス対策やハラスメント防止
- 職場環境の継続的改善
これらはすべて、衛生委員会を通じて推進できるテーマです。
◆ まとめ:衛生委員会は「設置する」から「活かす」へ
労働者が50人を超えたそのときから、企業に求められる安全衛生管理体制は一段上のレベルに進みます。
衛生委員会をしっかりと機能させることは、企業の信頼性向上、リスク回避、そして働きやすい職場づくりにつながります。
立ち上げ段階では不安な点も多いかと思いますが、産業医や衛生管理者と協力しながら、形だけでない「意味ある会議体」を目指して取り組んでいきましょう。
投稿者プロフィール

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しながわ産業医オフィス 代表産業医
産業医としてこれまでに延べ3,000名以上の従業員の健康管理に携わる。
<保有資格>
泌尿器科学会認定専門医・指導医
テストステロン治療認定医