冬の感染症対策2025:職場で防ぐインフル・ノロの集団感染
◆ はじめに
冬は気温と湿度の低下により、ウイルスが長く生存しやすく、感染症が流行しやすい季節です。
特に毎年11月から3月にかけてはインフルエンザとノロウイルスが職場で同時に流行しやすく、欠勤や集団感染につながることがあります。
感染拡大を防ぐには、個人の予防だけでなく、企業としての体制整備が不可欠です。
◆ インフルエンザ:重症化予防と早期対応が鍵
インフルエンザは、突然の高熱(38℃以上)や関節痛、全身の倦怠感を特徴とする感染症で、飛沫感染と接触感染によって広がります。
感染から発症までの潜伏期間は1〜3日程度。発症後3〜7日間はウイルス排出が続くため、早期の隔離が重要です。
重症化しやすい層は次のとおりです。
- 高齢者、小児、妊婦
- 糖尿病、心疾患、呼吸器疾患などの持病がある方
厚生労働省の調査によると、ワクチン接種は発症率を50〜60%、重症化率を80%以上減らす効果が報告されています(エビデンスレベルA)。
企業としては、従業員へのワクチン接種の勧奨を秋のうちに行うことが推奨されます。
予防の基本ポイント:
- 手洗い・うがいの徹底(流水+石けんで20秒以上)
- 室内湿度を50〜60%に保つ
- 十分な休養とバランスの取れた食事
- 発熱・咳・喉の痛みがある社員は出勤を控える
感染者が出た場合は、発症後5日間かつ解熱後2日間(小児は3日間)は自宅療養を原則とし、職場復帰の判断は体調と医師の指示に従うことが望まれます。
◆ ノロウイルス:数個のウイルスでも感染する“超強力”な感染症
ノロウイルスは、冬季に最も多い食中毒の原因ウイルスで、非常に感染力が強い点が特徴です。
たった10〜100個のウイルスでも感染し、発症者の便や吐物、または汚染された食品・器具を介して広がります。
主な感染経路
- 汚染された食品(加熱不十分な二枚貝など)
- 感染者の嘔吐物・便からの二次感染
- トイレ・ドアノブなどを介した接触感染
症状は嘔吐、下痢、腹痛、発熱など。潜伏期間は24〜48時間で、一般的に1〜3日で回復しますが、高齢者や乳幼児では重症化することがあります。
現在、ノロウイルスに有効な抗ウイルス薬は存在せず、治療は水分補給などの対症療法が基本です。
下痢止め薬はウイルスの排出を遅らせる可能性があるため、医師の指示がない限り使用を避けます。
感染を防ぐためのポイント:
- 手洗いを流水・石けんで念入りに行う(アルコールは効きにくい)
- 嘔吐物・便を処理する際はマスク・手袋・ガウンを着用
- 使用後の清掃には次亜塩素酸ナトリウム(1000ppm)を使用し、ビニール袋に密封して廃棄する
職場で嘔吐者が出た場合は、すぐに対応スタッフを限定し、二次感染を防ぐ体制が必要です。
◆ 職場で実践すべき「標準予防策(スタンダードプリコーション)」
感染症対策の基本は、感染源・感染経路・感受性宿主の3要素を断つことです。
この原則に基づき、医療機関以外の一般事業所でも次の取り組みを推奨します。
1. 感染予防行動の周知
- 咳エチケット(マスク・ティッシュ・袖で口を覆う)
- 感染経路や症状をポスター等で共有
- ワクチン接種や健康管理の重要性を定期的に周知
2. 労働者の健康管理
- 出勤前の検温・体調報告を推奨
- 発熱や下痢・嘔吐がある場合は上長へ連絡、出勤を控える
- 回復後も48〜72時間は自宅療養を推奨(特にノロウイルス)
3. 職場環境の整備
- トイレや休憩室の定期消毒(ドアノブ・便座など)
- 手指消毒用アルコールや手洗い設備の整備
- 加湿器による湿度管理、定期的な換気
4. 発生時の対応ルール化
- 嘔吐物の処理手順や消毒薬の保管場所を明確化
- 対応担当者を事前に決めておく
- 事後には必ず衛生委員会等で報告・再発防止策を検討
◆ まとめ:冬の感染症対策は「企業の信頼」を守る取り組み
インフルエンザやノロウイルスは、職場全体に一気に広がる可能性があります。
感染対策は、従業員の健康を守るだけでなく、事業継続と企業の社会的信頼を守る行動でもあります。
企業としては、「日常の手洗い・環境整備」「発生時の対応マニュアル整備」「健康教育の継続」という三本柱を徹底することが求められます。
冬の感染症を「毎年の恒例行事」にせず、医学的根拠に基づいた予防を職場に根付かせていきましょう。
📘参考文献
厚生労働省「インフルエンザ総合ページ」/同「ノロウイルスに関するQ&A」/
産業医科大学労働科学研究所「職場における感染症予防チェックリスト」/
日本食品衛生協会「手洗いマニュアル」
投稿者プロフィール

-
しながわ産業医オフィス 代表産業医
産業医としてこれまでに延べ3,000名以上の従業員の健康管理に携わる。
<保有資格>
泌尿器科学会認定専門医・指導医
テストステロン治療認定医
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