【産業医コラム】職場巡視の本質とは?人事が押さえるべき頻度・記録・効果的な進め方

◆ はじめに:職場巡視は“法令対応”だけではない

「産業医がたまに職場を見ているだけ」
「衛生管理者の巡視記録は一応あるけど、内容はいつも同じ」
このように、形骸化した職場巡視が少なくありません。

しかし実際、労働災害の予防、快適な職場づくり、そして従業員の健康保持のためには、「職場を“見て管理する力”」が不可欠です。

本コラムでは、法令で定められた職場巡視の頻度や方法とあわせて、実務で活かすポイントを解説します。


◆ 職場巡視とは?その目的と役割

職場巡視とは、産業医や衛生管理者が実際に現場を訪れ、職場の作業環境・衛生状態・作業方法・安全対策などを主に目視で確認する活動です。

その目的は大きく3つに整理されます。

  1. 労災・事故の未然防止(安全衛生)
  2. 快適な職場環境の維持(3S活動、空調、照度など)
  3. 健康リスクの早期発見(長時間労働者、作業負荷など)

単なる“見回り”ではなく、「現場でしか見えない問題」を拾い上げ、改善につなげるための機会でもあります。


◆ 産業医の職場巡視:法律上の位置づけと頻度

産業医による職場巡視は、労働安全衛生法第13条、同規則第15条で次のように定められています。

【原則】

  • 月1回以上の職場巡視が必要

【例外】条件を満たせば2ヶ月に1回でも可

  1. 衛生管理者が週1回以上の職場巡視を実施し、その結果を産業医に提供
  2. 産業医が必要な情報を得たうえで、事業者の同意があること

この場合でも、産業医による定期的な職場の把握は必須であり、「産業医がまったく巡視しない」という運用は認められていません。


◆ 衛生管理者の職場巡視:頻度と記録

衛生管理者は、労働安全衛生法第12条に基づき、少なくとも週1回以上の職場巡視が義務づけられています。

▷ 巡視内容の記録には、以下を含める必要があります:

  • 実施日・時刻・場所
  • 巡視者の氏名
  • 指摘事項
  • 講じた措置の内容

この記録は、衛生委員会の議事録にも反映されるべき内容であり、産業医へ提供する一次情報としても機能します。

💡なお、「記録の保存義務」自体は明文化されていませんが、労基署の監査時に確認対象となるため、3年間の保管が実務上は推奨されます。


◆ 巡視で見るべきポイント:チェックリスト例

🔎【作業環境管理】

  • 温度・湿度(適正範囲:18〜28℃、湿度40〜70%)
  • 照度・騒音・換気状況
  • 3S(整理・整頓・清掃)状態
  • 防災設備(消火器・非常口・避難経路)

🔎【作業管理】

  • 姿勢、動作の負担感
  • 安全保護具の着用状況
  • 作業手順書の整備・実践状況

🔎【健康管理】

  • 休憩室・給湯室の衛生状態
  • 救急箱・冷蔵庫の整備状況
  • 喫煙室・換気の状況

🔎【デスクワーク特有の問題】

  • 長時間同姿勢による肩こり・腰痛
  • 眼精疲労対策(照明・モニター設置)
  • 足元や椅子まわりの整理・配線処理

デスクワークなど肉体労働以外の職場でも、巡視による健康影響への指摘は可能です(例:VDT症候群、つまずき・転倒防止策など)


◆ 効果的な巡視にするための工夫

職場巡視は、「一目見て終わり」ではなく、“気づいたことを改善に結びつける”ことで意味があります。以下のような工夫が有効です。

  • テーマを決めた巡視(月ごとに重点を変える)
    例:整理整頓月間、照明点検月間、通路・避難経路点検月間
  • 巡視後のフィードバックを迅速に
    → 気づいた点はすぐ衛生委員会や現場責任者に共有
  • 従業員との“対話”も大切
    → 作業者の気づきや不満、改善提案は貴重な情報源

◆ 巡視を怠った場合のリスク

  • 労災発生時に「安全配慮義務違反」として企業責任が問われる
  • 産業医の選任義務違反・活動形骸化があれば労基署の是正対象
  • 形だけの衛生委員会・巡視が「不実施」と見なされる可能性も

「記録がない」「改善がなかった」「産業医の関与が見えない」
──これらは、企業が労基署から最も指摘されやすい点です。


◆ まとめ:職場巡視は“日々の安全と健康”を守る基盤

職場巡視は、産業医・衛生管理者・人事担当者が連携して行い、「職場を見て管理する力」を継続的に養っていくことが重要です。
単なる“形式”で終わらせるのではなく、現場との対話を通じた改善のきっかけにすることが、健康経営や労災リスク低減にもつながります。

義務として、また企業文化として、職場巡視が適切に実行されているか。


自社内で改めて「職場巡視が機能しているか?」を見直すタイミングにしていただければ幸いです。

投稿者プロフィール

石川 達郎
石川 達郎
しながわ産業医オフィス 代表産業医
産業医としてこれまでに延べ3,000名以上の従業員の健康管理に携わる。
<保有資格>
泌尿器科学会認定専門医・指導医
テストステロン治療認定医