【産業医コラム】“頑張る中間管理職”が危ない?中高年男性社員に潜むメンタルリスク
こんにちは!
泌尿器科専門医・産業医の石川達郎です。
働き盛りの40〜50代男性社員のメンタル不調——。
単なる“個人の体調”の話ではなく、企業全体の生産性、組織運営、職場の雰囲気に大きく関わる重要課題です。
実際、私は産業医として多くの企業で中高年男性社員のメンタル不調と向き合ってきました。その背景には、うつ病や適応障害といったメンタル疾患のほか、男性更年期障害(LOH症候群)やストレス、生活習慣病などが複雑に絡み合っています。
本コラムでは、企業として押さえるべき要因と、現場で取れる実践的な対策について解説します。
■ 見えにくい不調:「男性更年期障害」とは?
女性に更年期があるように、男性にもテストステロン(男性ホルモン)の低下による心身の変化が訪れます。
- 疲労感
- 意欲・性欲の低下
- イライラ、不安感
- 抑うつ症状
…といった症状が見られ、放置するとうつ状態に発展することもあります。
しかし、男性には「閉経」という明確なタイミングがないため、本人すら自覚しづらいのが男性更年期障害です。
■ 背景にある3つのリスク要因
① ストレス・責任の増大
中高年になると多くが管理職に昇進し、部下の育成・組織運営・チームノルマ達成など精神的負荷が急増します。
② 生活習慣病との複合化
忙しさや不規則な生活から、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの慢性疾患を抱えるケースも少なくありません。
これらは身体だけでなくメンタルにも悪影響を及ぼします。
③ 「男は我慢するもの」という世代的な背景
弱音を吐くことに対する抵抗感が強く、あえて症状を我慢したり相談しない傾向が強いのが中高年男性の特徴です。
■ なぜ企業で見過ごされがちなのか?
- 「疲れてるだけ」と長期間見過ごされる
- 体調よりパフォーマンスの低下として現れる
- 管理職自身が相談しづらい立場にある
これにより、不調が深刻化してからようやく表面化するケースが目立ちます。
■ 放置すると企業が背負うリスク
- 管理職の突然の休職・離職
- チームの士気や生産性の低下
- 採用・育成コストの増大
- 労災・安全配慮義務違反のリスク
つまり、放置すれば企業全体の損失につながる問題なのです。
■ 人事が実践できる5つの対策
① ストレスチェックの“活用”
- 年1回ストレスチェックを実施し、結果のフォローアップまでおこなう
- 高ストレス者には産業医面談やカウンセリングを案内
② 管理職への声かけ・相互チェック
- 「部下」だけでなく「上司」同士のメンタルチェックも意識
③ 過重労働の見直し
- 過剰な長時間労働の是正
- 有休取得促進、柔軟な勤務形態導入など
④ 専門医との連携
- 疲労感や意欲低下が見られたら、泌尿器科やメンタルクリニックへの受診を促す
- 「男性更年期外来」も視野に
⑤ 産業医面談の活用
- 人事や上司が直接聞きづらいことも、産業医が中立な立場でヒアリング可能
■ 職場全体で“支える文化”を
症状があるのに「誰にも相談できない」「相談するほどでもないと思ってしまう」——そんな中高年男性社員を放置すれば、静かに職場から戦力が失われていくことになります。
メンタル不調は「本人の弱さ」ではなく、ホルモン・生活習慣・環境ストレスの複合的な健康問題です。
■ まとめ:中高年社員は“企業の財産”
企業がこれまで育ててきた中高年社員は、経験・知見・信頼の面で大きな財産です。
その世代が元気に働き続ける職場は、組織の安定・人材育成にもつながります。
ぜひこの機会に、中高年男性社員の心身の健康に目を向ける職場づくりに取り組んでみてください。
投稿者プロフィール

-
しながわ産業医オフィス 代表産業医
産業医としてこれまでに延べ3,000名以上の従業員の健康管理に携わる。
<保有資格>
泌尿器科学会認定専門医・指導医
テストステロン治療認定医