職場における花粉症対策 ― 生産性低下を防ぐために ―

はじめに:花粉症は「ありふれた疾患」

花粉症はアレルギー性鼻炎の一種であり、日本では非常に多くの人が罹患しています。

日本耳鼻咽喉科学会の調査によると、花粉症の有病率は1998年に約20%、2008年に約30%、2019年には40%を超え、年々増加傾向にあります。特に10〜50代では45%以上が花粉症を有するとされ、働く世代にとって決して珍しい病気ではありません。

花粉症は命に関わる病気ではありませんが、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみといった症状により、集中力の低下や業務効率の悪化、重症の場合は欠勤につながる点で、企業にとって無視できない健康課題です。


花粉症の基礎知識:なぜ症状が出るのか

花粉症は、体内に侵入した花粉を「異物(抗原)」として認識し、免疫反応(抗原抗体反応)が過剰に起こることで発症します。本来は身体を守る免疫反応ですが、過剰になることで、くしゃみ・鼻水・涙などの症状が出現します。

原因はスギ花粉が代表的ですが、ヒノキ、ブタクサ、イネ科植物などもあり、花粉症は「春だけの病気」ではありません。地域や季節によって原因花粉が異なる点も特徴です。


症状と個人差:見えにくい不調に注意

花粉症の三大症状は、くしゃみ・鼻水・鼻づまりですが、それ以外にも頭痛、倦怠感、微熱、皮膚のかゆみなどを訴える方もいます。症状の強さや種類には個人差が大きく、「軽そうに見えても仕事に支障が出ている」ケースも少なくありません。

人事担当者や管理職が「花粉症くらいで」と軽視せず、業務への影響を理解することが重要です。


早めの治療が重症化を防ぐ

花粉症対策の最大のポイントは、花粉が本格的に飛散する前から治療を開始することです。鼻粘膜の炎症が軽度なうちに治療を始めることで、症状の重症化を防ぎ、シーズンを比較的快適に過ごすことができます。

抗ヒスタミン薬や点鼻薬・点眼薬などの対症療法が一般的で、症状が強い場合は医療機関(耳鼻咽喉科、眼科、アレルギー科など)の受診が推奨されます。また、根治療法として減感作療法を選択する方も増えています。


セルフケア:花粉との接触を減らす工夫

花粉症対策では、セルフケアも非常に重要です。
マスクやメガネの着用は、花粉の侵入を大幅に減らす効果があります。実験では、通常のマスクでも花粉を約70%、花粉症用マスクでは約84%削減でき、メガネの着用でも目に入る花粉量を40〜65%減少させることが示されています。

さらに、

  • 花粉が付きやすいウール素材を避ける
  • 帰宅時に手洗い・洗顔を行う
  • 室内の掃除やカーテンの洗濯をこまめに行う
  • 花粉飛散量が多い昼前後・夕方の外出を控える

といった工夫も有効です。


企業としてできる花粉症対策

企業としては、以下のような支援が有効です。

  • 花粉症に関する正しい情報提供(衛生講話・社内掲示)
  • マスク着用や服装への配慮を許容する職場風土
  • 体調不良時に無理をさせない勤務配慮(在宅勤務・時差出勤など)
  • 受診や早期治療を促すメッセージ発信

これらは大きなコストをかけずに実施でき、生産性低下の予防につながります。


まとめ:花粉症対策は職場環境改善の一環

花粉症は国民病とも言えるほど身近な疾患であり、働く世代への影響は小さくありません。
「花粉症は個人の問題」とせず、企業として理解と配慮を示すことが、従業員の働きやすさと組織全体のパフォーマンス向上につながります。

早めの治療と日常的なセルフケア、そして職場の理解。この三つを組み合わせ、花粉症シーズンを乗り切っていきましょう。

投稿者プロフィール

石川 達郎
石川 達郎
しながわ産業医オフィス 代表産業医
産業医としてこれまでに延べ3,000名以上の従業員の健康管理に携わる。
<保有資格>
泌尿器科学会認定専門医・指導医
テストステロン治療認定医